中小企業の労働生産性の現状
日本の中小企業は、全企業の約99.7%、雇用の約7割を占めていますが、労働生産性は大企業のおよそ半分程度にとどまっています。中小企業の付加価値額や利益は相対的に低く、従業員一人あたりの生み出す価値も大企業と比べて小さい傾向があります。
図:中小企業の労働生産性
出典:中小企業白書(2024)
以下に業種別の労働生産性を示しますが、特に小規模事業者ではその差が顕著であり、業種によっては大企業を大きく下回る水準にあります。
図:業種別の労働生産性
出典:中小企業白書(2024)
中小企業の課題
2024年版中小企業白書では、第4章において中小企業が直面している主な課題として「人手不足対応」「生産性向上」「DXの遅れ」が挙げられています。これらはすべて連動しており、ITやDXの活用によって人手不足を補い、生産性を向上させる必要性が強調されています。
筆者が見てきた多くの中小企業では、ITやDXに関する知識や人材が不足しており、その重要性を理解しながらも対応できていない状況が目立ちます。現在では、以下のような先進技術が低コストかつ容易に導入できる環境が整ってきています。
- 生成AI(ChatGPT等)
- ノーコード/ローコード開発
- RPA(定型業務自動化)の進化
- データ連携とBI(可視化)活用
- AI-OCRによる帳票データ化
- IoT+AIによる異常検知 など
それにもかかわらず、多くの企業が未だに人手に依存した非効率な業務を続けており、「人がやらなくていい作業」に人が時間を費やしているのが実態です。
人材流出と負のスパイラル
このような環境下で従業員はストレスを感じ、モチベーションが下がるだけでなく、特に優秀な人材ほど早期に退職してしまう傾向があります。結果的に企業は「人手不足 → 非効率 → 離職 → 人材難の深刻化」という負のスパイラルに陥ってしまいます。こうなる前に、早期にITやDXの導入で業務の見直しを図ることが不可欠です。
図:人材不足に陥る負のスパイラル
人件費はコストではなく「価値の源泉」
私たちが目指す生産性向上は、単にコストを削減して利益を出すという発想ではありません。本来の目的は、従業員一人ひとりがより多くの付加価値を生み出すことです。
付加価値とは、売上から材料費などの変動費を差し引いた部分であり、企業の利益や人件費、将来投資の源となるものです。
かつてのように「利益確保のために人件費を削減する」アプローチでは、企業の持続的な成長は見込めません。重要なのは、一人あたりの付加価値を高め、その成果として賃金を上げていくことです。
生産性向上には、以下の2つの視点が有効です:
- 売上アプローチ:商品・サービスの価値を高め、価格に反映させて付加価値を向上させる
- コストアプローチ:IT活用などにより業務の効率化を図り、少ない時間でより多くの成果を出す
特に人手が足りない状況では、まずコストアプローチで優秀な人材の余力を生み出し、そのうえで売上アプローチに注力するという順番が有効だと考えます。
今後に向けて
「人を減らす経営」ではなく、「人を活かして価値を創る経営」へと転換することが、今後の中小企業に求められます。そのためには、ITやDXで実現できることを正しく理解し、具体的に何ができるのかを知ることが第一歩です。
今後、こうした視点からの情報発信を続けていくことで、中小企業の支援につなげていきたいと考えています。
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