インバウンド回復に伴うホテル業のチャンスと課題(後編)

OTA内での競争に勝つには

 自社予約サイトからの予約獲得も重要ですが、インバウンド顧客にとっては、「本当に信頼できるか分からない自社サイト」よりも、世界中で評価されているOTAを経由する方が安心できると感じることが多く、実際に多くの予約がOTA経由で行われています。

 運営側にとっても、自社予約サイトの維持や技術的な管理は中小規模施設にとってはハードルが高く、OTAなら比較的低コストで手軽に運用を開始できます。そのため、多くの宿泊施設が複数のOTAに登録して集客することが一般的となっています。

 このようにOTAに参入しやすい環境であるがゆえに、OTA内の競争が激化するのは当然の流れです(OTA同士の競争については、我々が戦う必要はなく、勝ち組OTAに乗るという戦略が現実的です)。

 前編でも述べた通り、利用者は空室状況、価格、レビュー、評価などを総合的に判断して予約を行います。価格設定は別の章で詳述しますが、競合の価格や時期に応じて柔軟に価格を調整する「ダイナミックプライシング」が導入されており、稼働率の向上が不可欠です。

ホテル業の経営指標

 OTAからの集客を考える上で、次の経営指標が重要です。

RevPAR(販売可能客室1室あたりの売上)= 平均客室単価 × 平均稼働率

 つまり、稼働率を高めつつ単価も上げていくことが、収益最大化の鍵となります。

 前編で示したように、「価格も評価も高い」施設(象限①)は、レビュー評価が稼働率向上に直結し、結果としてRevPARも高くなります。OTAから予約した客粗利を考えると、手数料(コミッション)も考慮する必要がありますが、OTAごとにそれほど差がないので、ここではRevPARにフォーカスします。

顧客満足度とは何か?

顧客の立場から見ると、満足度は以下のように定義できます。

顧客満足度 = 「実体験(体験価値)」- 「事前期待」

 このギャップが大きいほど高評価に、逆に体験が期待を下回れば低評価やクレームにつながります。この顧客満足度はOTAにおけるクチコミ評価と密接に関連していると考えられます。

 ただし、施設の立地や広さなどのハード面は簡単に変えられません。したがって、施設側がコントロール可能な要素(サービス、対応など)を徹底的に見直すことが現実的です。

 以下は顧客満足度をブレイクダウンした図(太枠はコントロール可能)で、事前期待と体験価値の構成要素をブレイクダウンしています。概ねこんなところでしょう。

ちなみにサービス品質は一般的にSERVQUALモデル(サービス品質の5つの構成要素)として以下のように評価することが一般的です。

どこから着手するか

 例えばBooking.comでは、「総合満足度」に加えて、「スタッフ対応」「施設・設備」「清潔さ」「快適さ」「お得感」「ロケーション」などの個別項目が評価されます。これらが「総合満足度」にどう影響するかを重回帰分析で明らかにすることができます。

総合評価 = a×スタッフ + b×設備 + c×清潔さ + d×快適さ + e×お得感 + f×ロケーション

 この分析で例えば「清潔さ(c)」の係数が最も高ければ、清潔さが総合満足度に最も強く影響していることがわかり、そこを優先的に改善すべきという判断ができます。

 改善点を特定するうえで、実際のクチコミコメントの分析は非常に有効です。OTAのレビューは率直に記載されていることが多く、信頼性の高い情報源となります。

また、インバウンド客は、日本のビジネスホテルの「部屋の狭さ」など、文化的な前提を知らないことも多く、こうした点が期待とのギャップとなり、不満の原因になるケースも少なくありません。たとえば、「この部屋は体格の大きい方には狭く感じられるかもしれません。広めのお部屋もご用意しております」といったように、期待値を事前に調整する一文を加えるだけでも、満足度には大きな違いが生まれます。

このように、レビューに「部屋が狭い」と書かれていたからといって、すべてを鵜呑みにして改善する必要はありません。部屋が狭いのであれば、それを理解・納得できる顧客層をターゲットとすることが戦略的です(STP戦略)。

むしろ、ターゲット外の顧客に無理に泊まってもらい、評価を下げてしまうくらいなら、事前に正しい情報を伝えて他の施設を選んでもらった方が、結果として自社の評価を維持・向上させることにつながります。

どのように着手するか

 改善策は施設の強みや立地などにより異なりますが、筆者は2つの軸でサービスを評価する方法を提案します。

① 「選択できるか」

 提供されるサービスに選択肢があるかどうか。例えば、朝食を「あり/なし」で選べるかどうか。都市型ホテルなら朝食を外で取る選択肢が豊富なため、ホテル朝食の満足度がそこまで影響しない。一方、山奥の旅館で食事が不満なら他に選択肢がなく、強く不満が残る傾向があります。

② 「コントロールできるか」

 利用者がサービスを自分で調整できるかどうか。ビュッフェ形式の朝食は選択の自由度が高いため、不満が起きにくい。一方、掃除のリクエストに「今日は対応できません」と言われると、制御不能な状況にストレスを感じ、不満やクレームにつながりやすくなります。

改めて、上記の2軸(「選択できるか」「コントロールできるか」)に基づいてホテル側のサービスをマッピングすると、次のようになります。

特に、「選択不可」かつ「コントロール不可」に該当するサービスは、顧客が最もフラストレーションを感じやすく、不満が高まりやすい領域です。

  • フロント対応:フロントスタッフの対応はすぐに大きく改善するのは難しいものの、教育やマニュアル整備により対応可能です。
  • 施設・設備(大物):建物の老朽化や部屋の広さなどは問題になりやすいですが、短期間で改善することは困難です。
  • ロケーション:これは宿泊者自身が選択している要素であるため、基本的には不満につながりにくい傾向があります。

 このように、顧客視点に立ってサービスを整理・分類することで、「どこから改善に着手すべきか」という方向性が見えてくるのです。

 筆者は3月に福井の旅館に宿泊した際、売店があるにもかかわらずドリンクの種類が非常に少なく、最初は「えっ、どうすればいいの?」と戸惑いました。ところが、すぐ隣にローソンがあることに気づき、「ああ、ここで買えばいいのか」と納得できたという経験があります。
このようなケースは、上記で述べた「選択可能」な状態に該当するため、結果的に顧客満足度には影響しませんでした

まとめ

 顧客満足度は「期待と実体験のギャップ」から生まれるものであり、施設側がコントロール可能な要素に着目して、戦略的に改善を進めていくことが重要です。特にインバウンド客に対しては、文化的な前提やニーズを理解した上で、事前の情報提供、サービス設計、レビュー対応を的確に行うことで、OTA上の評価や予約数を大きく向上させることが可能です。こうした顧客満足度向上やOTA対策に関する戦略立案・実行支援は、ぜひ弊社にご相談ください。現場目線とデータ分析を掛け合わせた実践的なご提案をさせていただきます。

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