退職はなぜ起こるのか? 〜組織を強くするための“辞めない仕組み”とは〜

近年、多くの企業で「人材が定着しない」「若手がすぐ辞めてしまう」といった声を耳にするようになりました。厚生労働省の調査によれば、新卒3年以内の離職率は約30%、中途採用者でも1年以内に離職するケースが一定数発生しています。
退職はもはや個別の問題ではなく、組織全体の構造的な課題になりつつあるのです。

いま、退職が増えているのか?

厚生労働省が発表した「令和5年 雇用動向調査結果の概況」では、入職率・離職率ともに上昇傾向にあることが確認されています。人の出入りが激しくなっているのが現状です。

図:入職率・離職率の推移 出典:「令和5年 雇用動向調査結果の概況」

さらに、事業規模別に新卒者の3年以内離職率を見ると、以下の傾向が見られます(出典:厚労省データリンク)。

事業所の規模が小さいほど、離職率が高まる傾向にあり、中小企業では特に人材定着の難しさが浮き彫りになっています。

辞める理由とは?

では、人はどのような理由で会社を辞めるのでしょうか。

厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果」では、以下の理由が上位に挙げられています。

これを見ると、人間関係、給料、労働環境、仕事への興味などと色々な原因によって辞めていることが分かります。このように退職理由は多岐にわたりますが、表面的な「不満」だけに注目していても本質的な解決には至りません。
重要なのは、なぜ不満が生まれ、それが退職へと至るのかという“構造”を理解することです。

退職のメカニズムとは?

以下の図は、退職に至るプロセスを構造的に捉えたものです(筆者案)。

図:人が辞めるメカニズム

上段:会社がコントロールできる領域

ビジョンや企業文化、人事制度や教育、ジョブアサイン、給与など、会社が従業員に提供できる「環境や仕組み」が並びます。

中段:会社と従業員の「接点」

従業員との直接的な接触ポイントとして、以下の4つがあります:

  1. 機会の提供と報酬:やりがい、成長機会、給与、スキル向上など
  2. 評価と信頼:公平で透明な評価、上司や組織からの信頼感
  3. 制度の運用:制度導入の納得感、自主性、選択肢の有無
  4. コミュニケーション:公式&非公式なつながり、雑談、安心感

下段:従業員の内面(欲求と感情の変化)

従業員は、「安定」「公平」「意義」「成長」「達成」といった欲求を持っています。 これらが満たされないと、不満足度が高まり、感情は以下のようなサイクルをたどります:

疑問 → 不安 → 不満 → あきらめ → 転職

最近話題となっている「静かな転職(Quiet Quitting)」は、「あきらめ」で止まり、最低限の業務しかしなくなる状態です。この段階まで放置すると、組織への貢献はほぼゼロに近づいてしまいます。

辞めない組織づくりのために

一部の企業では、退職リスクを恐れすぎて「辞めないように気を遣いすぎる」ケースも見られます。
しかし、退職を防ぐ本質的な方法は、仕組みを通じて従業員の欲求に応えることです。

ポイントとなるのは、「誘因効用 ≧ 貢献効用」の関係が保たれていること。

✅ 誘因効用とは?

従業員が会社に期待する見返り・メリットのこと。

たとえば:

  • 給与や福利厚生
  • やりがいや成長の機会
  • 評価や承認、働きやすい環境

つまり、「この会社で働くと自分にとってプラスだ」と感じられる要素です。


✅ 貢献効用とは?

従業員が会社に対して提供する努力や労力のこと。

たとえば:

  • 業務の成果・スキルの発揮
  • 時間・エネルギーの投入
  • 組織への協力やチーム貢献

いわば「この会社のために自分が差し出すもの」です。

 従業員が「この会社で働く価値がある」と感じ続けられる状態を維持することが、最も効果的な定着策です。以下に実践的な5つの視点(①~④は接点に対応しています)を紹介します。※あくまで1例としてお考え下さい

① 働く意味を実感できる仕組み

  • 成果が見える化され、貢献が認知される仕掛け
  • プロジェクトごとのフィードバック、社内報での紹介

② 評価とフィードバックの透明化

  • MBOや360度評価を取り入れた、現場視点の納得できる制度

③ 選択肢のある制度設計

  • 一律の制度運用から、「選べる働き方」への転換(例:副業可、裁量労働)

④ 公式&非公式なつながりの維持

  • プロジェクトレビューやフィードバック制度、定期的な1on1などの関係性づくり
  • オフサイトミーティングや部活動、喫煙スペース(筆者が喫煙者なもので、、、)

⑤ タイプ別アプローチの導入

人が職場に求める“欲求”は、一人ひとり異なります。たとえば、「安定」を求める人と「挑戦」を求める人では、働く上で重視するポイントがまったく異なります。

同じような志向性の人ばかりを集めると、組織は均質化し、むしろ活力を失うこともあります。多様な価値観を持つ人が存在することで、組織内に調和や補完関係が生まれ、健全な組織運営が可能になります。

したがって、会社としては「全員に同じ働きかけをする」のではなく、従業員のタイプに応じてアプローチを変える必要が出てきています。いまは、そうした個別最適な対応が求められる時代と言えるでしょう。

たとえば、以下のようにタイプを分類し、それぞれに合った動機づけを設計することが有効です。

おわりに:辞めない職場は“仕組み”でつくる

退職は「個人の問題」ではなく、「組織の構造」の問題です。
社員が辞めない組織とは、「やりがい」と「成長」が感じられ、「納得」して働ける場所です。

あなたの会社では、従業員が「ここで働き続けたい」と思える仕組みが機能していますか?

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