財務分析入門②

前回のコラム「財務分析入門①」では、「収益性」「生産性」「安全性」といった財務分析の基本的な指標をご紹介しました。
今回は、ある中小企業の財務データを用いて、実際にどのように分析を進めていくのかをご紹介します。

ケース企業の概要と財務諸表

ケース企業の概要

業種:地域密着型の食品スーパーマーケット
惣菜・日配品・青果・鮮魚・精肉などを幅広く取り扱う

年商:約6.2億円(620百万円)

規模:従業員49人(パート・アルバイト含む)、中規模店舗を郊外に2店舗展開

財務データ(BS/PL)

この企業の直近2期分の財務諸表(貸借対照表・損益計算書)を見てみます。※単位は百万円

表:直近2期のBS

店舗の改装や設備の更新により、有形固定資産が195百万円まで増加しました。これを借入金で賄っているため、負債も増加しています。

表:直近2期のPL

今期は売上が増加している一方で、営業利益がマイナスに転じ、赤字に陥っていることが分かります。
いったい何が原因なのでしょうか?

各種指標の変化と分析

まずは大まかに、前期からの変化を確認します。

  • 売上高は増加:販促や来店客数の増加による
  • 売上原価が急増:仕入価格上昇、粗利率低下
  • 販管費(特に人件費)が増加:従業員45人 → 49人に増員

以上を踏まえ、より詳細に指標を確認していきます。

収益性分析

売上高総利益率(粗利率)が大幅に悪化(31.0% → 25.8%)

販管費率が高止まり(103%)
→ 結果として、赤字転落につながったと考えられます。

総資本回転率も業界平均を下回る:資産を活かしきれていない兆候です。

生産性分析

労働生産性が大幅に悪化:粗利の減少と付加価値率の低下が主因

労働装備率と有形固定資産回転率が業界平均より低い
→ 設備投資に対して売上・利益が追いついておらず、資産効率の面でも課題が見られます。

安全性分析

当座比率が40%を下回り、資金繰りの悪化が顕在化

売掛金と棚卸資産の増加が現金圧迫の主因
→ 食品スーパーとしては売掛金の存在自体が異例であり、法人向け納品等が考えられます

固定比率が205%超:明確な過剰投資状態

まとめ

このモデル企業は、「売上増」には成功しているものの、「粗利の確保」と「コスト管理」が追いついておらず、典型的な“売上はあるが儲からない企業”に陥っています。

特に以下の点が課題として浮き彫りになっています:

  1. 粗利益率の悪化による収益性低下
  2. 人件費の増加と生産性の悪化
  3. 在庫・売掛の増加によるキャッシュフロー悪化
  4. 固定資産の過剰投資と資産効率の低さ

これらは財務分析を通じて明らかになった課題ですが、本質的な原因を特定するためには、さらに深掘りが必要です。たとえば、粗利益率が低下している要因は何か?
商品別に見た場合はどうか? 近隣の競合店と比べてどうなのか?――こうした観点で分析を進めることで、真の原因が見えてきます。

また、人件費の増加についても、単に人数が増えたからではなく、「適切な人員配置がされていたか」「労働時間は最適に管理されていたか」といった点まで掘り下げることで、実態が明確になります。

財務分析とは、あくまで経営活動の結果として現れた“数字”です。数字そのものを眺めていても、分かることには限界があります。
重要なのは、その数字がどのような活動の結果として生まれたのか
を突き止めることです。
この「活動レベル」まで踏み込んで分析を行うことが、真の改善に繋がる第一歩となることを忘れないでください。

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