以前ある注文住宅企業を経営診断した際、営業 → 設計 → 建築(製造) → アフターサポートと続く業務フローの中で、部門間の連携が不十分だったため、最終的にサポート部門が過度な負担を抱えていたという事例がありました。
営業は「売ったら終わり」、設計はノウハウの共有不足から同じようなミスを繰り返し、結果的にアフター部門がその尻拭いに追われる状況となっていたのです。
このような構造的な問題は、他の中小企業でも少なからず見られます。
今回はこうした事例をもとに、「どこでどんなコストが発生し、それをどう最適化するか」についてご一緒に考えていきたいと思います。
部門別コストとその見えざる側面
多くの中小企業では、機能別組織を採用しており、バリューチェーンの各プロセス――営業・設計・製造・アフターサポート――に応じて部門が編成されています。そのため、一般的には部門ごとに発生するコストを管理する「部門別損益管理」が行われています。
以下の図は、各部門において一般的に「見えているコスト項目」の例を示したものです。
このように、直接的に発生する人件費や設備費、広告費などは把握しやすく、帳簿上も明示されているため「見えるコスト」と言えます。
しかしながら、これらのコストを単に把握・記録するだけで、コストの適正化や改善につながるでしょうか?コストは「いつ」「どこで」「なぜ」発生したのか、活動(業務プロセス)との関係性を踏まえて管理しなければ、部分最適に陥り、全体の無駄を見過ごすことになります。特に、部門をまたいで発生する“見えざるコスト”への意識がないと、真のコスト改善にはつながりません。
見えざるコスト
営業 → 設計 → 製造とすべてが順調に進めば問題はありません。
しかし現実には、どこかの工程で発生したミスを後工程が“尻拭い”するケースが非常に多く存在します。たとえば、人体に影響を及ぼすような不具合が見過ごされ、市場に流通してしまった結果、リコール対応が必要になり、テレビCMでの注意喚起や回収コストが膨大にかかるといったケースです。ここまで大規模でなくとも、日常的に各部門間で発生する「見えないコスト」が企業収益を圧迫しているのです。
以下の図は、各部門における「見えているコスト」と「見えていない(潜在的な)コスト」の一例と、それぞれの大きさのイメージを示したものです。
なぜ「見えないコスト」が見落とされるのか?
一般的に、材料費や設備費などは製造コストとして明確に把握されるため、製造部門のコストが大きく見える傾向があるため、製造部門のコストを下げるようなアプローチをとります。しかし、全体最適を考えると設計コストをかけてでも、製造しやすい設計を行ったり、保守しやすいような設計をするということが有効なことがあります。
このように部門横断的に解決策を話し合うことで、効果的にコストを下げる方法があることが多いのです。部門同士が「それはうちの部門には関係ない」とか言っているケースが見ますが、顧客の事を考えれば、協力して問題解決にあたるべきです。
以下は、各部門の不備やミスが、どのような形で他部門や全体に影響を与えるかを示したものです。
各部門における「見えないコスト」の具体例
◉ 営業部門
- 顧客ニーズの聞き漏れ → 設計の手戻り増加
- 誤情報の伝達 → 誤発注や納品ミス
- 記録・情報共有の不備 → 非効率な営業活動
- 過剰対応による工数浪費
◉ 設計部門
- 設計ミス → 再設計・修正作業の増加
- 設計不備 → 段取り変更・作業中断
- 引渡し後の設計不良 → アフター部門での無償対応
- 仕様の曖昧さ → 製造現場での混乱や修正
- ノウハウ未蓄積 → 同じミスの繰り返し
- 保守性の欠如 → アフター対応工数の増大
◉ 製造部門
- 材料の無駄・加工ミス → 再製造コスト
- 仕様変更への対応 → 残業・休日出勤増加
- 非定型対応の増加 → 品質のばらつき拡大
◉ サポート部門
- クレーム対応に伴う人件費・ブランド低下リスク
- 顧客フィードバックの社内共有不足 → 再発防止が不十分
品質コストという考え方
「品質コスト(Cost of Quality, CoQ)」とは、「良い品質を保つために必要なコスト」と、
「品質が悪かったことで後から発生するコスト」を合わせて捉える考え方です。
この品質コストは、一般的に以下の4つに分類されます:
名称 | 内容(具体例) |
予防コスト | ミスや不良を未然に防ぐための費用(教育、標準化、設計レビューなど) |
評価コスト | 品質を確認・チェックするための費用(検査、試験、監査など) |
内部失敗コスト | 出荷前に発見された不良への対応(再加工、手直し、廃棄など) |
外部失敗コスト | 出荷後に発覚した不良への対応(クレーム、無償修理、返品、信用失墜など) |
「見えざるコスト」はどこに含まれるか?
前述の「見えないコスト(Hidden Cost)」は、主に③内部失敗コストや④外部失敗コストに該当します。つまり、品質が悪かったことで後から余計に発生するコストが多く、表面には現れにくいため見過ごされがちです。
品質コストを下げるにはどうすればよいか?
以下の図をご覧ください。
この図のように、全体の「総コスト」は「品質コスト」と「それ以外のコスト」に分けられます。
さらに品質コストは、先ほどの4分類に分解されます。
ここで重要なのは、
予防コストと評価コストにしっかり投資することで、
内部・外部失敗コスト(=見えないコスト)を減らすことができ、
結果として総コストも削減できる
という構造です。
実践するには
「わかったけど、どう実践すればいいの?」という声もあると思います。
答えはシンプルです:
失敗コストの原因となっている不具合を徹底的に分析し、
根本原因を特定し、それを確実に取り除くこと
これこそが、品質コストを下げるための最も実践的で効果的なアプローチです。
品質を維持する仕組みづくり
筆者が以前関わったある企業で、品質向上の取り組みとしてまず実施したのは、過去のクレーム(問い合わせ含む)の徹底的な洗い出しでした。
具体的には、過去3年分のクレームとその予備軍をすべてリストアップし、以下の観点で分類・分析を行いました:
- クレームに対して企業側に責任があるか(あり/なし)
- 発生原因はどこにあるのか(設計・製造・営業など)
- 本来であれば、どの段階で気づくべきだったのか
この分析によって見えてきたのは、最も多かったのは製造部門起因のクレームでしたが、それに次いで多かったのが設計部門起因のクレームだったという事実です。
会社としては目に見える製造工程に問題意識を向けがちですが、実際には「設計段階で仕様をこうしていれば…」「別の素材を選定していれば…」といった、設計上の判断が後工程に大きな影響を及ぼしていたケースが非常に多かったのです。
「クレームは宝の山」
「クレームは面倒だ」と感じるのは当然です。しかし、それを発生させた原因は自分たちにあるという意識を持つことが、組織としての成長には不可欠です。
クレームを一部の担当者だけで抱え込むのではなく、全社で共有し、次に活かす仕組みづくりが重要です。
つまり、クレームという“お宝”を部門を越えて「設計」「製造」「営業」「CS」で分け合い、次の改善に結びつける情報資産として活用する体制こそが、品質を維持・向上させる組織的な仕組みなのです。
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