筆者は、物を探している時間こそが、人生で最も無駄な時間の一つではないかと感じています。
実際に調べてみると、仕事中に「探し物」に費やしている時間は、1日平均13.5分にも及ぶそうです。これを年間に換算すると、およそ54時間にもなります。
(参考:https://www.kokuyo-st.co.jp/mag/work/2022/02/000212.html)
そこで今回は、この「探し物の時間」を削減するための手法である5S活動についてご紹介します。
5Sとは?
5Sとは、職場環境を整え、働きやすくするための基本的な活動です。
その名称は、日本語の5つの単語の頭文字に由来しています:
- 整理(Seiri):不要なものを取り除く
- 整頓(Seiton):必要なものをすぐ使えるように配置する
- 清掃(Seisou):常にきれいな状態を保つ
- 清潔(Seiketsu):整理・整頓・清掃の状態を標準化・維持する
- しつけ(Shitsuke):ルールを守る習慣を身につける
5Sの起源は、1950年代の日本の製造業にあり、特にトヨタ自動車が導入・発展させた「トヨタ生産方式(TPS)」の一環として体系化されました。
当初は工場内のムダ排除や効率向上、安全衛生の強化を目的に活用されていましたが、その後、品質管理(QC)や改善(カイゼン)の考え方と結びつき、1970〜1980年代には「5S」として広く認知されるようになりました。
現在では、製造業にとどまらず、医療、介護、サービス業、行政機関などさまざまな分野で導入され、「職場づくりの基本」として定着しています。特に中小企業においては、低コストかつ即効性の高い改善手法として重宝されています。
なお、海外では以下のように英訳され、広く用いられています:
- Sort(整理)
- Set in Order(整頓)
- Shine(清掃)
- Standardize(清潔)
- Sustain(しつけ)
5Sは単なる見た目の改善にとどまらず、職場全体の意識改革や風土づくりにまで影響を与える、奥深い活動です。
5S活動の成果 ~期待できる7つの変化~
5Sを導入すると、職場環境や働き方にさまざまな良い変化が生まれます。
中でも、「探し物の手間が減る」という効果は特に実感しやすく、整理整頓された職場では、自然と気持ちよく仕事ができるようになります。
以下に、5Sによって期待できる主な効果を7つご紹介します。
- 作業効率の向上
探し物に費やす時間が減り、業務がスムーズに進みます。 - 品質の向上
不良品の早期発見やミスの防止に寄与します。 - 安全性の確保
通路や作業スペースが整備され、事故やケガのリスクが軽減されます。 - コストの削減
不要な在庫やムダな作業が減ることで、コストの抑制につながります。 - 従業員のモチベーション向上
清潔で整った職場は、働く意欲やプロ意識を高めます。 - 顧客・取引先からの評価向上
整然とした職場は、訪問者に好印象を与え、信頼にもつながります。 - 継続的な改善文化の定着
改善意識が組織内に浸透し、自律的な行動が育ちます。
成功させるカギ ~3つの重要要素~
5S活動を継続的に定着させ、実際の成果へとつなげていくためには、次の3つの要素が不可欠です。
特に5Sは、従業員一人ひとりの意識に強く依存する活動です。そのため、全社的かつ継続的に取り組む体制づくりがなければ、成功は望めません。
1. 経営陣の関与と本気度
トップの強い姿勢と支援が現場に伝わることで、5Sの取り組みが社内に浸透し、本格的に推進されます。
2. 現場全員の参加
部署や職種を問わず、全員が「自分ごと」として取り組むことが成功の前提です。傍観者をつくらない体制が必要です。
3. 仕組みと見える化
定期的な点検、評価、表彰など、継続を支えるための仕組みを整備しましょう。成果が可視化されることで、モチベーションも維持しやすくなります。
整理の方針
整理は前述したように要らないものを取り除くこと(捨てる、別の場所に移すなど)です。
そのためにはまず、要るか要らないかを判断する必要があります。自分にとって要らないものでも他の人にとっては要るものである可能性もあるので、これは全員で識別する必要があります。
以下は整理と整頓の方針を示します。このように対象物に対して方針(アクション)を示すことで、整理の判断基準が明確化されてきます。
整理の方法:赤札作戦 ~第一歩は「見える化」から~
ではまず最初の整理する方法で昔からあるやり方ですが、非常に有効な方法をご紹介します。「赤札作戦」です。赤札作戦とは使っていない物や不要と思われる物に赤札を貼り、一時保管後に必要性を再確認。不要と判断された物は計画的に処分するのです。
幾つかやり方はありますが、ここでは簡単に付箋を使った方法をご紹介します。
以下が赤札作戦のステップとなります。
① 対象を決める
- 対象範囲(工場、倉庫、事務所など)と品目(工具、在庫、書類など)を明確にします。
② 実施計画を立てる
- 「赤札を貼る期間」「確認期間」「処分日」などのスケジュールを事前に決めます。
- 実施の目的や意義を全員に周知し、参加意識を高めます。
③ 赤札を貼るための判断基準を設定
- 例えば「6ヶ月間使っていないもの」「所有者が不明なもの」など、誰でも判断できる基準を作ります。
④ 赤札を貼る(実施)
- 各担当者に赤札(ピンクや赤の付箋など目立つもの)を配布します。
- 目安は1人20枚程度。チームで職場を巡回し、基準に従って不要と思われる物に赤札を貼ります。
⑤ 必要なものは赤札を外す
- 一定期間内に「やはり必要」と判断されたものは、責任者の判断で赤札を外します。
- このプロセスにより、必要・不要が明確になります。
⑥ 赤札が貼られたモノを集める(赤札置き場)
- すべての赤札対象物を一カ所に集めて保管。最終的な処分の判断を行います。
⑦ 不要物を処分する
- 処分の方法(廃棄・リサイクル・売却など)を決定し、迅速に処分します。
- 固定資産の場合は、経理部門や上司と相談のうえ手続きが必要です。
この活動を通じて「本当に必要なもの」が浮き彫りになり、職場がすっきりと整います。
まとめ
5Sは地道な取り組みですが、職場に与える影響は絶大です。まずは小さな一歩から。今日から始められる「身の回りの整理」こそが、未来の変革につながる第一歩です。企業の競争力強化に向け、今こそ5Sに取り組みましょう。
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