中小企業・個店が生き残るために──差別化のための3つの軸【前編】では大手企業も含めた差別化戦略の軸(手軽軸、商品軸、密着軸)に関してお話をさせてもらいました。
今回は中小企業のとるべき戦略に関してお話をします。
一般的に中小企業は大手企業に比べると経営資源(ひと、かね、もの、情報)が乏しいため
・大量生産によるコスト競争は困難(コストリーダーシップ戦略は不利)
・全国規模で展開する広域な差別化には広告費やブランド力が足りない
ということになります。
そうすると、中小企業が取るべき戦略は商品・サービスで付加価値を高めて、大手ではできない商売を地域や顧客属性等で絞った「差別化集中戦略」をとるべきだということになります。
では「どのような軸で差別化を行うべきか」、さっそく見ていきましょう。
誰をターゲットにすべきか
私が地元の商店街を歩くと、マクドナルド、モスバーガー、吉野家、町田商店(家系ラーメン)など、非常に多くのチェーン店が目に入ります。
おそらく他の駅に行っても、ほとんど同じような風景が広がっているのではないでしょうか。 どの街も気が付けば似たような店舗が並び、時には「今、自分がどこの駅にいるのか分からない」と感じることすらあります。
こうした人気チェーン店は強力なブランド力とオペレーションを武器に集客を行っています。 しかし、中小企業や個人店がこれらと同じ土俵で戦っても、勝ち目はなかなかありません。
では、どのような顧客を対象にすればよいのでしょうか?
市場の成熟とともに、消費者ニーズは以下のように変化しています
- ニーズの多様化
今までにない新しさ、自分のこだわりに合った個性的なお店を求める傾向が強まっている。大量・均一な商品より「違い」を重視。 - 地元志向の高まり
「うちの街には、こんなお店があってね」と自慢したくなるような、地域密着型の個店への支持が高まっている。 - 高齢化社会の進行
遠くまで出かけず、地元で気軽に済ませたいというニーズが顕在化。徒歩圏・自転車圏で完結する利便性の重要性が増している。 - 健康志向の台頭
添加物や油が多いチェーン店よりも、素材や調理法にこだわった安心感のあるお店を求める人が増えている。
こうした大衆化されていない要望や、地元でしか体験できない価値こそが、大手チェーンにはない中小企業ならではの強みとなります。
したがって、これらの顧客層を的確にセグメント化し、そのニーズに合わせたマーケティング戦略を展開していくことが、今後の中小企業の生き残りにおいて極めて重要です。
次の章からは、成功している1つの店舗を取り上げて、ベストプラクティスとして掘り下げていきます。
納豆専門店が示す価値のつくり方
一例としてご紹介したいのが、「納豆」の専門店です。誰もが好む食材とは言いにくい納豆ですが、池尻大橋にある「せんだい屋」というお店をご存じでしょうか?

※せんだい屋HPより抜粋
この店舗は、山梨県に本社を構える納豆メーカーが運営しており、都内に2店舗を展開しています。なんと、「納豆食べ放題定食」を提供しており、昼時には多くの人が行列をつくるほどの人気ぶりです。わざわざ近隣からこの納豆を目当てに足を運ぶ人も少なくありません。
商品にも明確なこだわりがあります。国産大豆を使用し、大粒・小粒・ひきわりなど多様な種類(なんと納豆のお菓子まで商品化しています)を揃えています。実際に食べてみると、スーパーで販売されている納豆と比べて、「大豆本来の風味」がしっかりと感じられ、素材の違いを体感できます。
価格は一般的な納豆よりやや高めですが、日常使いではなく“たまの贅沢”として楽しめるちょうど良さがあります。
納豆は好みが分かれる食品ですが、このように明確な商品差別化がなされている場合、「好きな人」には深く長く支持され続ける傾向があります。
万人受けしない商品でも、特定のターゲット層に刺さる価値を提供できれば、強いブランドや集客力を築くことができるのです。
差別化の軸
ここで、前回ご紹介した差別化の3つの軸を思い出してみましょう。
- 商品軸:高くても良い品質、他にはない価値の提供(=こだわり・おいしさ・新鮮さ など)
- 手軽軸:早い、安い、うまい(=利便性・価格面での優位性)
- 密着軸:顧客ニーズに柔軟に対応する(=接客対応・個別対応力)
この分類に当てはめると、先ほどの納豆専門店「せんだい屋」は、「納豆食べ放題定食」という他にはない体験価値を提供していることから、商品軸で差別化している例と言えるでしょう。
話をより一般化し、中小企業と大手企業をこの3軸で比較すると、以下の表にまとめられるでしょう。
つまり、中小企業が取るべき差別化の方向性は次の2点に集約されます。
- 商品差別化による「こだわり・品質」の訴求
→ 他社にはない独自性や素材・製法へのこだわりを強みとする - 接客や個別対応力による「柔軟性・密着性」の提供
→ 顧客との関係性を深め、地域・個人に寄り添った対応で差別化する
マーケティングの4P
差別化戦略をさらに実践的なマーケティング施策に落とし込むために、マーケティングの4P(Product, Price, Place, Promotion)の観点から中小企業と大手企業の違いを整理してみましょう。
Procuct
商品やサービスそのものの品質、機能、デザイン、品揃えなどのことです。
中小企業では「他では買えないこだわり」や「個性」が差別化要素となり、大手は「万人受けする安心感」が強みになります。
先ほどの納豆の例で言うと、「国産大豆をつかったこだわりの納豆」、「納豆ベースに幅広い品揃え」となります。
Price
中小は価格以外の価値で勝負するのが定石で、大手はスケールメリットを活かした価格競争力が武器となります。
Place
中小は地域密着・店舗限定の「ここでしか買えない特別感」が強み。大手は全国どこでも買える「安心感」を提供します。
先ほどの納豆の例で言うと、都内では2店舗しか展開しないため顧客はここでしか買えないという特別感があるためこのお店のためにわざわざ遠方からでも訪れます。
Promotion
広告、販促活動、SNS、口コミなどのことです。
中小は「顔が見える」「紹介される」信頼型の販促が中心で、小さな店舗が多いので店員の数も少ないから顧客との距離は必然的に近くなります。大手はマスメディアやネット広告を活用した認知拡大型が得意です。
まとめ:中小企業でも大手に勝つための戦略はある
中小企業は、大手と同じ土俵で勝負しても、資本力・広告力・スケールではどうしても不利になりがちです。しかし、「限られた資源だからこそできる戦略」があります。
それが、今回ご紹介したような
- 商品軸での「こだわり」や「他にはない価値」
- 密着軸での「個別対応」や「地元とのつながり」
といった差別化戦略に集中することです。
万人に受ける必要はありません。
「この人にだけは絶対に刺さる」価値を突き詰めることで、ファンは必ず生まれます。
そして、ファンがリピーターとなり、口コミが新たな顧客を呼び込み、やがて小さくても強いブランドが育っていくのです。
大手にできないことは、まだまだたくさんあります。
中小企業だからこそ選ばれる理由を明確にし、狭く深く、強く戦う。
それこそが、これからの中小企業が生き残り、勝ち抜くための現実的かつ力強い戦略です。
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