中小企業・個店が生き残るために──差別化のための3つの軸【前編】

今回は「中小規模の店舗が取るべき戦略」について、2回に分けてお話しします。
前編では、大企業・中小企業を問わず共通して活用できる基本的な考え方を取り上げ、
後編では中小企業に特化した内容をご紹介する予定です。

戦略と戦術の考え方

マイケル・ポーターの『競争戦略』において、企業の戦略は大きく以下の3つに分類されます。

  • 差別化戦略
     他社にはない独自の価値を提供し、顧客から選ばれることを目指す戦略です。
     例:品質・デザイン・ブランド力で差をつける。
  • コスト戦略
     徹底したコスト管理により、業界内で最も安価に商品・サービスを提供する戦略です。
     大量生産や業務効率化がカギとなります。
  • 集中戦略
     
    特定の市場や顧客層に経営資源を集中し、ニーズに応じた価値を提供する戦略です。
     小規模企業でも強みを活かしやすいアプローチです。

これらの戦略を実行に移す際に有効なのが、マーケティングの「4P」です。
4Pは戦略を具現化するための具体的な戦術と位置づけられます。

■ マーケティングの4P(戦術の4つの柱)

上記の戦略を実行に移す際に有効なのが、マーケティングの「4P」です。4Pは戦略を具現化するための具体的な戦術と位置づけられます。

  • Product(製品):何を売るか(商品の特徴・品質・デザインなど)
  • Price(価格):いくらで売るか(価格設定、割引、支払い方法など)
  • Place(流通):どこで売るか(販売チャネル、店舗、ECサイトなど)
  • Promotion(販促):どうやって知らせるか(広告、キャンペーン、SNSなど)

この戦略と戦術の関係を理解する上で、4Pのうち「製品」と「価格」は商品力、「流通」と「販促」は販売力と捉えると、よりわかりやすくなります。

そして、売上は「商品力 × 販売力」で決まると考えることができます。
良い商品を効果的に販売すれば売上は伸びますが、商品に魅力がなかったり、販売方法が適切でない場合には売上は伸び悩みます。

特に近年では、口コミやSNSの影響力が大きくなっており、特徴ある商品が「バズる」ことでプロモーションの効果が一気に高まるケースも見られます。この点にもぜひ注目しておきましょう。

先ほどの戦略と戦術との関係性を示すと以下のようになるでしょう。

 差別化戦略の要素

差別化戦略では、「価格」を除いた商品力および販売力(流通[場所]・販促)において、それぞれ差別化が可能になります。これを具体的に、お寿司屋さんの例で説明していきます。

  1. 商品力の差別化
     競合店と比べて、寿司のネタが新鮮でおいしければ、それは差別化された商品と言えます。
  2. 流通(場所)の差別化
     駅から近く、人通りが多くて利便性が高ければ、それも立地による差別化です。
     飲食店では「場所が重要」とよく言われますが、まさにこの点です。
  3. 販促の差別化(接客力など)
     大将のコミュニケーション力が高く、自分の好みを理解してサービスしてくれる場合、それも立派な差別化の一つです。

コスト戦略の要素

コスト戦略は、「価格」にフォーカスした戦略です。
たとえば、大量仕入れや業務効率化により価格を下げて勝負するケースです。

集中戦略の要素

集中戦略では、限られたセグメントに特化することが特徴です。
たとえば「職人によるこだわり寿司を出す小さな店舗」などが該当します。

今回は、今後お話しする中小企業の戦略において最も重要となる差別化戦略に話を絞って展開していきます。

3つの差別化軸

前の章の 差別化戦略の要素を考慮すると、差別化の軸は大きく以下の3つの視点で分類できると考えられます。

  1. 商品軸:高くても良い品質(=おいしい・新鮮)
  2. 手軽さ軸:早い、安い、うまい(=利便性・価格面の優位)
  3. 密着軸:顧客ニーズに柔軟に対応する(=接客や個別対応力)

以下にはこの3軸を簡単にまとめます。

何故このような3つの差別化が必要なのかを改めて整理すると以下のようになります。

  1. 差別化の軸を絞るべき
     → 経営資源は限られているため、すべての面で平均的な価値を出そうとすると「中途半端」になり、生き残れない。
  2. 特徴のない存在は選ばれない
     → 芸能界や都市と同じで、個性や強みがないと埋もれてしまう。渋谷の街の例のように、「若者向け」か「大人向け」かの軸を明確にしないと、どちらにも刺さらない。
  3. 企業も「際立った個性(軸)」が必要
     → 顧客から選ばれるためには、自社ならではの価値を明確にすることが重要。「我が社らしさ」を持つことが差別化につながる。
  4. 軸の組み合わせで勝負する
    → どんなに安くても、味がまずければ(手軽さだけでは)生き残れない。全体的に一定の価値を担保した上で、一つまたは二つの軸で特に尖らせる必要がある。

手軽・品質・密着 ― 差別化の軸とその注意点

以下には各軸の成功要因と注意点を示しておきます。

手軽軸(低価格・効率性)

✔ 成功要因(KFS)

  • 低価格で提供するためには「効率性」が重要
  • スケールメリットが効きやすく、大量・一括生産に向いている

✘ 注意点

  • 値下げや特売で一時的に売上は伸びるが、常態化してしまうと「特売待ち」になる
  • 定価では買ってもらえず、価格競争に巻き込まれてしまう

商品軸(品質・独自性)

✔ 成功要因(KFS)

  • 創造性を高めるために、自由な組織風土や文化が必要
  • 効率よりも、提供価値の大きさや独自性を重視

✘ 注意点

  • 自己満足的な「押し付け」品質になりがち
  • 顧客が求めていない部分にこだわっても、かえって無価値となる

密着軸(柔軟対応・顧客関係)

✔ 成功要因(KFS)

  • 顧客との信頼関係を築き、声を吸い上げることが重要
  • 接客対応を行う従業員は、企業にとって最重要の存在

✘ 注意点

  • 顧客ごとに対応が異なり、バラつきが生じやすい
  • 対応レベルが高い人・低い人で印象が分かれ、企業全体への信頼を損ねる可能性がある

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