「中小企業白書」ってご存じでしょうか?
名前は聞いたことがあるけれど、内容まではよく知らない――そんな方も多いかもしれません。
中小企業白書は、日本全国の中小企業の実態や課題を、国が毎年調査・分析してまとめた公式の報告書です。いわば、「中小企業のいま」を知るための最も信頼できる資料であり、国の政策立案の土台にもなっています。
2025年版では、物価高・円安・金利上昇・人手不足といった激しい外部環境の変化を受けて、経営現場がどのような課題に直面しているのか、多角的に分析されています。
本記事(前編)では、そんな中小企業白書の内容を、初めての方にも分かりやすくご紹介します。今回は特に、令和6年度(2024年度)の中小企業の実態と課題に焦点を当てて解説していきます。
概況(2024年の状況)
白書によれば、中小企業の景況DI(業況判断指数)はコロナ禍後に一時回復を見せたものの、2023年末以降は足踏み傾向にあります。とくに原材料高・エネルギー価格の上昇が利益を圧迫しており、大企業との格差も拡大しています。
図:中小企業の企業規模別業況判断DIの推移 ※「中小企業白書2025年度版 P.2」より
業種ごとに見ると製造業よりもサービス業、小売業の停滞が著しく、このような業種が多い小規模事業者の景況悪化が深刻です。
図:中小企業の業種別業況判断DIの推移 ※「中小企業白書2025年度版 P.3」より
これを見る限り、コロナ後に元の状況に戻らずにいる中小企業の厳しい現実が見えてきます。
この後からは企業の付加価値(=営業利益+減価償却費+人件費)を高めることで、これらの業況判断DIがいずれ好転するという仮説の元、企業の付加価値の構成要素とその関係性について整理しておきます。
中小企業白書を読み解くことで、付加価値を高めるために中小企業がどのような取り組みを行うべきか、その方向性が見えてきます。
近年は、中小企業の付加価値が伸び悩む傾向が見られます。その背景を理解するには、付加価値を構成する3つの要素:①営業利益(経常利益)、②減価償却費(設備投資)、③人件費の動向を個別に確認することが重要です。
- ①営業利益(経常利益):営業利益は「売上 − 原価 − 販売管理費」で算出されます。つまり、売上の動向や、原材料費などの原価、さらには広告・人件費などの販管費がどのように推移しているかがカギとなります。また、営業利益を設備投資や人員確保に回すことで、生産性を高めやすくなります。
- ②減価償却費:これは、設備投資の状況を反映する指標です。中小企業が将来に向けてどの程度積極的に設備投資を行っているのかが問われます。
- ③人件費:賃上げの進捗や人手不足の深刻さといった、労働環境の実態が反映される要素です。
これら3つの要素の動きから、中小企業の付加価値創出の現状と課題が浮かび上がってきます。
売上と利益の関係性
以下のグラフは、中小企業と大企業の売上高および経常利益の推移を示したものです。
これを見ると、中小企業の売上はコロナ前の水準まで回復しているものの、経常利益の伸びは大企業に比べて限定的であることがわかります。
図:売上高・経常利益の推移(企業規模別)
では、なぜこのような差が生まれているのか。その背景を、次に詳しくひも解いていきましょう。
次のグラフは、労働生産性の推移を示したものです。大企業が大きく労働生産性を伸ばす中で、中小企業の労働生産性にほぼ変化がないことが分かります。
労働生産性は「付加価値 ÷ 従業員数」で算出される指標であり、従業員が少ない中でどれだけの価値を生み出しているかを表します。
近年、中小企業では人手不足が続いているにもかかわらず、この生産性が大きく向上していないということは、付加価値自体があまり増えていないことが主な要因であると考えられます。
コストの上昇
一方でコスト面に関してさらに詳しく見てみると、2024年度には30年ぶりの「金利のある世界」が到来しました。中小企業は借入金依存度が高く、金利上昇は直接的なコスト増に結びつきます。また、輸入比率が高いため、円安は原材料費の上昇に直結しています。
まとめ
ここまで見てきたように、2024年度の中小企業は売上面ではコロナ前の水準に回復しつつある一方で、利益や生産性の面では大企業との格差が広がっている状況にあります。
特に注目すべきは、以下の3点です。
1. 景況感と実態のギャップ
業況判断DIを見ると、多くの中小企業が「景気が良くない」と感じている傾向が続いています。これは、物価高や人件費上昇といったコスト要因が企業の実感に強く影響しているためと考えられます。
2. 利益の伸び悩みと付加価値構成の停滞
売上が戻りつつあるにもかかわらず、経常利益の伸びが限定的である背景には、営業利益の低迷や設備投資・人件費の抑制があります。
付加価値の3要素(営業利益・減価償却費・人件費)のうち、いずれも大きく伸びておらず、中小企業が積極的に価値創出に向けた投資ができていない実情が見えてきます。
3. 労働生産性の伸び悩み
労働生産性は「付加価値 ÷ 従業員数」で測られますが、人手不足が深刻化する中でも生産性が上がっていないということは、裏を返せば「付加価値が十分に高まっていない」ことを意味します。
これにより、中小企業の現場では「少人数で多くの成果を出す」という構造転換が進みにくい状況が浮き彫りになっています。
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