ケーススタディ:スーパーマーケットに学ぶ経営診断の実践(後半)

本ケーススタディでは、架空のスーパーマーケット「R33スーパー」を題材に、経営診断の実践的アプローチを紹介しています。前半では以下の点を中心に取り上げました:

  • 基本情報の整理:企業概要、立地、業態、業績などの基礎データをもとに経営環境の前提条件を把握
  • 外部環境分析(PEST/5フォース):人口動態や競合の状況、業界構造などをマクロ・ミクロの視点から分析
  • 内部環境分析(バリューチェーン/財務指標):業務プロセスや収益構造を可視化し、強み・弱みを把握

後半では、これらの分析結果をもとにSWOT分析を行い、課題の抽出と改善提案を行っていきます。

SWOT分析

R33スーパーのSWOT分析(内部分析・外部分析)の結果は以下の通りです。

SWOT分析とは、内部要因と外部要因を整理・統合した分析手法です。

内部分析

外部分析

外部環境については、自社でコントロールすることが難しいため、「変えられない」という前提に立ち、どう対応するかという発想が重要になります。

また、機会と脅威は立場によって変わるという点にも注意が必要です。たとえば、「高齢化による地元密着型スーパーの需要増」はスーパーマーケットにとっては機会ですが、ファッション業界にとっては買い替え需要の減少といった脅威になることもあります。

経営課題の抽出:最も重要な課題とは?

現状分析の結果から何を課題と設定するかが最も重要です。この課題設定こそが、戦略立案の起点となります。

SWOT分析を通じて、R33スーパーの内部要因(強み・弱み)と外部要因(機会・脅威)を整理しました。次のステップでは、これらを掛け合わせて経営課題を導き出す「クロスSWOT分析」を活用します。

上記がクロスSWOT分析と言われるもので、「強みと弱み」、「機会と脅威」を掛け合わせて、どのような戦略をとるという道しるべになります。この分析により、表面的な「良し悪し」ではなく、どう行動すべきかという実践的な戦略を導くことができます。

中小企業にとって最重要な戦略は「①強み × 機会(積極戦略)」

中小企業の場合、経営資源が限られているため、以下の理由から「強み × 機会(SO戦略)」を重視すべきとされています。

  • 理由①:限られた資源の集中投下が必要
     → 弱みの克服にはコストがかかる一方、強みを活かす戦略は効率的で成果が出やすい
  • 理由②:ニッチ市場でのスピードが武器
     → 大手が対応しにくい市場機会に、自社の強みで迅速に対応できる柔軟性がある

したがって、まずは「自社の強みを活かして、どの機会を掴むか」に焦点を当て、SO戦略から課題を設定するのが基本的な流れです。

状況によっては、「②脅威 × 弱み(改善戦略)」も次に重視すべき領域となる場合があります。外部環境が追い風である場合には、自社の弱点を改善することで、競争力を高めて戦える可能性があるからです。

本ケースで筆者が設定した重要課題(クロスSWOTに基づく)

本ケーススタディでは、以下の5つを重要課題として設定しました。クロスSWOTの観点から、それぞれがどの戦略領域に該当するかも併記しています。

  1. 高齢者向けサービスの強化(積極戦略:強み × 機会)
     地域密着型店舗という強みを活かし、増加する高齢者層にとって使いやすい環境を整備。
  2. 鮮度や惣菜を武器とした差別化(積極戦略:強み × 機会)
     青果・精肉・鮮魚の鮮度管理や、人気が高まっている惣菜部門を強化することで、他店との差別化を図る。
  3. 接客サービスの改善(改善戦略:弱み × 機会)
     現状、接客対応に課題があり、競合との差が顕著。万人に好感を持たれる接客を目指し、サービスレベルの向上を図る。
  4. リピート顧客の増加(改善戦略:弱み × 機会)
     現状のサービスや環境に満足できない顧客が離脱するリスクがあるため、不満要素を解消し、再来店を促す仕組みを構築する。
  5. 情報発信の強化(WT戦略:弱み × 機会)
     チラシやSNSなどを活用した効果的な情報発信が不足しており、集客機会を逃しているため、情報発信する仕組みを構築する。

課題への対応:改善策は何なのか?

課題が明確になったら、次はそれに対する改善策を検討します。改善策は必ずしも一つに限定されるものではなく、複数の選択肢が考えられます。

以下は筆者が提案する改善策の一例です。ぜひ参考にしてください。

  1. 高齢者向けサービスの強化
     ・高齢者向けの「宅配サービス」の導入
     ・高齢者限定「ポイント3倍デー」の実施
  2. 鮮度・惣菜による差別化
     ・地元産の産直品仕入れや朝獲れ商品の拡充
     ・惣菜の品揃え拡充と売り場面積の拡大
  3. 接客サービスの改善
     ・従業員研修の実施
     ・顧客満足度アンケートの定期実施と仕組み化
     ・朝礼や表彰制度によるモチベーション向上

※4、5に関しても様々な改善策が考えられます。自社の状況に応じて、社内で柔軟に議論・検討を進めることが望まれます。

まとめ

今回は、スーパーマーケットを題材に、経営診断の基本的な流れと考え方を紹介しました。
実際の現場ではより複雑な状況も多いですが、体系的な分析手法とフレームワークを用いることで、課題の本質を捉えやすくなります。

もちろん、これらの手法を使ったからといって必ず成功するとは限りませんが、経営戦略を考える上での「定石」として、ぜひ身につけていただきたい考え方です。

ただし、このようなアプローチを実践することはお時間のない経営者様には非常に大変なことです。そのようなときは、ぜひ私たちにご相談ください。

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